厚生労働省は1日、「体細胞クローン技術を用いて産出された牛および豚並びにそれらの後代に由来する食品の安全性」について、食品安全委員会に食品健康影響評価を依頼した。クローン牛肉や牛乳、乳製品、クローン豚肉を食べても大丈夫かを判断してくださいということである。
クローン技術というのは「複製品を作り出す」ことで、1996年、ほ乳類初のクローン羊「ドリー」以来、各国で研究開発が進められていた。
米国は今年1月に安全宣言をし、欧州食品安全機関も5月には結論を出す予定である。日本でも、厚労省や農水省は「安全性に問題はない」という立場をとっている。今のところ「クローン牛は死産などの発生率が高い」といった指摘はあるが、危険性を示すデータはないので、日本でも安全宣言が出される可能性が高い。
しかし多くの消費者は、国が安全と評価しても、どうしても素直に信じる気にはなれない。BSEも当初は「人には感染しない」と言われていた。遺伝子組み換え食品にも言えることだが、「今、わかっていないだけで、本当は危険なことが隠れているのではないか」という不安がつきない。
クローン技術に問題はなくても、もしも、人に影響のある遺伝的な病気や異常を持った1頭の牛から大量のクローン牛が産出されれば、その肉や乳製品を食べたことで被害が広がる可能性は十分に考えられる。
問題は、消費者がクローン食品(牛肉、乳製品、豚肉など)を選別することができるのか、何か起こったときにクローン食品の履歴を把握できるかということである。そのためには「クローン食品であることを表示する」ことが不可欠になる。しかし厚労省は「一般の食品と同等なので表示させることは難しい」という見解だ。もちろん、輸入クローン食品についても同じである。
では、農水省はどうかというと、クローン牛の表示に関しては、すでに結論を出している。体細胞クローン牛は、まだ市場に出ていないが、受精卵クローン牛は、すでに牛肉となって出荷されている(平成5年~19年3月末現在で312頭)。その際、表示を義務付けるかどうか問題になったが、結局、義務化は見送られ、任意表示としては「Cビーフ」と表示することになった。しかし、任意なので実際に表示されているかどうかよくわからない。これで、消費者の選ぶ権利と食の安全は確保されているといえるのか。(食品問題評論家 垣田達哉)
産経ニュース