1.はじめに
最近、花粉症の症状の緩和や治療を暗示したスギやヒノキの花粉加工食品が販売されています。
スギ花粉加工食品を飲用した女性が、アナフィラキシーショック(重篤なアレルギー反応)を起こした問題がありましたが、現状では当該製品のみならず、類似製品が、液体、カプセル剤、錠剤、粉末剤、飴など、様々な形態で多数販売されています。
このような製品を安易に使用すると類似した健康被害が発生するおそれがあります。
私達が健康食品とつきあうとき、“消費者が自己判断で疾病の治療・治癒に利用すべきではない”、という最も基本的な留意事項があります。そこで、花粉症対策やいわゆる健康食品の利用に関する注意点を以下にまとめてみました。
2.減感作療法(特異的免疫療法)の実情
花粉加工食品の多くは、「減感作療法」の効果を明示もしくは暗に期待させています。
しかし、これらの食品の摂取は、実際に行われている減感作療法とはその内容が大分異なります。
また減感作療法は、不測の事態にも対応できるように医師の管理下で行われているものです。
では実際の減感作療法とは、どういったものなのでしょうか。
減感作療法とは、抗原特異的免疫療法とも呼ばれ、アレルギーの原因物質(抗原、アレルゲン)である花粉を少しずつ体内に入れて身体を慣れさせることで、過剰なアレルギー反応を押さえることを目的とする治療法です。
減感作療法では、アレルゲンの量が厳密に調整された標準化エキスが主に使用され、その使用量もアナフィラキシーを誘発しないように慎重に定める必要があることから、減感作療法に熟練した医師のもとで行うのが原則です。
アレルゲンを直接体内に入れるため、副作用として、注射部位の腫れ、全身の発赤、喘鳴、アナフィラキシーのリスクがあり、万一の場合適切な対応が必要となるため、注射後30分程度は医師の管理下にとどまるようにします。
具体的には、まず、血液検査や皮内テストでアレルギーの原因を確かめます。
そのうえで、最初は濃度を下げて非常に薄く希釈したアレルゲンエキスを少量から注射していきます。
はじめは週1-2回の注射で進みますが、その後少しずつ濃度を上げて注射し、適当な濃度になったら間隔をあけ2週間に1回を2ヶ月間続け、その後、1ヶ月に1回の注射となります。
効果がでるまでに約3ヶ月はかかり、効果を維持するために少なくとも2-3年継続する必要があります。
治療をやめた後でも、効果が持続するのがこの治療法の特徴で、2年以上続けた人の約60-70%で効果が持続するといわれています。
一方、注射や長期間の通院が不要な舌下方式の減感作療法が最近注目されています。
負担が軽いことからメディアなどでも大きく取り上げられていますが、現在実施できる医療機関は限られており、実用化に向けて検証が行われている最中です。
要点をまとめると、減感作療法は以下の点でいわゆる健康食品の摂取とは大きく異なります。
・減感作療法の専門的なトレーニングを受けた医師が行う。
・主に皮下注射にて行う。
・使用するエキスは、標準化された製剤を用いる。
・開始前に必ず血液検査や皮内テストで、アレルゲンの検索を行う。
・副作用が生じた際、適切に処置できる施設で行う。
3.花粉症のセルフケア
花粉症対策として自分で出来るセルフケアは、外出時にマスクやメガネをして花粉を少しでも体内に入れないようにすることです。
マスクは花粉の飛散が多いときには吸い込む花粉を約1/3-1/6に減らします。
また、メガネは目に入る花粉を1/2-1/3まで減らすことが出来ます。
このほか、帽子の着用、うがい、洗顔、表面がすべすべした素材の洋服を着用するなど、花粉をなるべく付着させない工夫が大切です。
また、睡眠をよくとり、規則正しい生活やバランスのとれた食事を摂取することは正常な免疫機能を保つために重要です。
お酒の飲みすぎに気をつけること、タバコを控えることも鼻の粘膜を正常に保つために重要です。
花粉症についての詳しい情報は、厚生労働省HP「花粉症特集」に公開されていますので、参考にしてください。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/kafun.html
4.健康食品利用の際の注意点
いわゆる健康食品の利用には、基本事項がとても重要です。
・利用の目的
いわゆる健康食品を病気の治療や治癒目的に利用すべきではありません。
いわゆる健康食品は食品で、医薬品とは異なります。
病気の時は、かかりつけの医師の診察を受けましょう。
医療従事者の管理下で行われる治療においては、健康被害の発生の有無が想定され、適切な処置を受けることができます。
しかし同様のことを消費者が自己判断で行うと、健康被害の想定やその対処方法が分からず、重大な健康被害につながる可能性があります。
健康食品の利用は、あくまでも必要な栄養素の補給・補完を目的とするようにしましょう。
・科学的根拠の重要性
「○○に効果がある」「○%の人が改善効果を体験」などといった体験談を利用して商品の販売がされている例が多数ありますが、体験談はその人だけが言っていることであり、他の多くの人に当てはまるとはいえず、信頼できる情報とはいえません。
また、病気の治療や治癒の表示が直接されていなくても、そのような効果を暗示されているものは、消費者自身が起こりうる健康被害を十分に認識して対応する必要があります。
さらに、「天然」「自然」「化学物質を一切含みません」などとして安心感を与えようとする表現も使用されますが、天然だからといって全てが安全とは限りません。
このような宣伝広告が本当のことを言っているのか一見して判断することは難しいものです。
いわゆる健康食品の利用の判断には、科学的根拠の有無が重要です。
上記のような宣伝広告のみで判断せず、充分な科学的根拠があるのかどうかを確認し、摂取する必要性があるかを冷静に判断してください。
・製品の品質の重要性
いわゆる健康食品として流通しているものには、製品の規格・基準のないものが多数存在しています。
同じメーカーの製品でも、その含有成分が全て均一かどうかは分かりません。
成分表示のないもの、成分表示はあっても、肝心の成分の含量が記載されていないものなどが多く出回っています。
これまでに使用経験があった製品でも、健康被害が起こる可能性を認識する必要があります。
5.食品とアレルギー
アレルギーには食物によって起こる「食物アレルギー」もあります。
国では、食物アレルギーの患者を中心とした消費者の健康被害防止のために、アレルギー表示制度を設け、アレルギー物質を含む加工食品について、それを含む旨の表示を義務付けています。
現時点では、アレルギーや重篤な症状を引き起こしやすい25品目の原材料が、「特定原材料」および「特定原材料に準ずるもの」として規定されています。
このような表示を活用し、アレルゲンを摂取しないように注意するのが、消費者が自己判断で行うアレルギーへの対処方法です。
したがって、花粉症の人がアレルゲンである花粉が含まれる製品を摂取することは、冷静に考えれば、矛盾していることが分かります。