「鯉のエサ」のイメージが強く、東京圏ではあまり食べられてこなかった「麩」の人気が上昇中だ。
東京・松屋銀座に4月オープンした「ゆばとふ」は湯葉と麩の専門店。赤、黄、緑、黒…色鮮やかな生麩が目をひく。紅花麩にみそを載せた試食品をいただくと、モチモチの食感に甘辛いコクがからみ、紅花の余韻がフッ…おいしいじゃない! 「これは生麩を切っただけですが、焼いて、煮て、揚げて良し。麩そのものには味の主張がないので、組み合わせ次第でメニューが広がります」と店員さん。裏付けるように麩のメニューは約30種も。空豆や木の芽あえなどと合わせたカップ総菜は300円台と値段も見た目もかわいい。お酒を飲むホームパーティーのおみやげに喜ばれそう。
松屋の広報は「食の安心安全、体にやさしいをテーマに“ごはん横丁”的に9店舗を集めましたが、一番の人気店になっています」。
母体は上野公園の韻松亭はじめ日本料理9店を経営する八十嶋(本社・東京)。「鯉のエサの一方、高級和食や茶道の懐石、精進料理など特別な食材というイメージも強い。自社の麩を気軽に食べてもらいたいと知恵を出し合ってきた」とは井上英明専務。8年前にOLをターゲットにした「活水料理やまと」を銀座に開店。生麩のチーズ田楽など一品680円ほどのお手ごろメニューを開発し、デパ地下出店につながった。
小麦粉から抽出したグルテンにもち粉や小麦粉を加えて加水→熟成→練りを経てゆでたのが生麩、焼いたのが焼麩。食品成分表で同じ小麦粉素材の食パンと生麩を同重量で比べると、カロリーは3分の2以下、脂質は5分の1以下なのに、タンパク質は3割多い。健康食材なのだ。
昨年、東京・六本木にオープンした東京ミッドタウン内。日本人独特の美意識がはぐくんだ多彩な芸術品収蔵で知られるサントリー美術館が併設カフェに誘致したのは、金沢市の麩の老舗「不室屋」である。
午前11時半から30食限定の「ふやき御汁弁当」(1800円)は、麩の吸い物、麩の昆布締め、ダシを含んだ麩入り玉子焼き、簾麩の治部煮などに、「これもお麩? こんな料理の仕方もあるのね」と美術鑑賞後のマダムを舌でもうならせている。ほぼ連日完売のため「今日はまだ大丈夫?」と電話をしてくる固定客など、美術館の枠を超え集客。焼麩のラスクが付いた加賀棒茶もいいが、国産ウイスキーにピッタリな麩のおつまみもイケる。本物の鳥肉と見まごうつくねに、味も形もいかようにも変化する麩の無限の可能性をみる。
不室屋は10年前の西武池袋本店を皮切りに、日本橋三越、高島屋三店(日本橋、新宿、横浜)と東京圏への進出が続いた。「『加賀麩』ブランドが東京で認められるように固定客を増やしてきた結果」と本店営業部。「近年の食のご当地ブームも追い風になった」とも聞けば、今後全国の多彩なお麩が、都を目指してくるのかも!?
産経ニュース